*この記事は、2025年3月14日現在の法令等に基づいて作成されています。
M&Aを行うにあたって、必ず行われるのがデュー・デリジェンスです。
このデュー・デリジェンス費用を、一時損金とすべきか、それとも株式の取得価額に含めるべきかは実務家でも議論が分かれるところですが、最近立ち会った税務調査でも論点になりましたので、裁決事例とあわせて内容をシェアしたいと思います。
デュー・デリジェンスとは
M&A買収側が売り手側の会社について、その価値やリスクを調査することを指します。
ひとことでデュー・デリジェンス(以下、「DD」といいます。)と言っても、財務DD、法務DD、税務DD、ビジネスDD、労務DDなど様々なDDがあり、一般的には、監査法人や弁護士、税理士法人など外部の専門家に委託することが多いです。
対象会社の規模にもよりますが、DD費用は数百万円から数億円になることもあります。
買い手がこのDD費用を一時損金にしたい気持ちがよく分かりますね。
一時損金の根拠
法人税法第22条第3項第2号
内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
取得価額算入の根拠
法人税法施行令第119条第1項第1号
内国法人が有価証券の取得をした場合には、その取得価額は、次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 購入した有価証券(…)
その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)
裁決事例
すべてのケースにおいてDD費用は株式の取得価額に算入と判断されています。
平成22年2月8日裁決(TAINSコード:F0-2-500)
・臨時取締役会において株式を取得する旨の決議を行い、その後DDを依頼していたため、当該株式を取得することを決意していたと認められる。
・DDは当該株式の買収についての意思決定の参考とするためであったと認められる。
平成26年4月4日裁決(TAINSコード:F0-2-697)
・DDを依頼する前に、経営統合(株式交換)に関するスキーム案を検討していたため、DD開始時点ですでに経営統合の相手方を限定していたと認められる。
・DD報告書を株式交換比率算定の基礎資料として使用している。
令和6年1月24日裁決(TAINSコード:F0-2-1232)
・DDは株式の取得を目的として依頼したことが、報告書や契約書などから明らかである。
・過去の税務調査でDD費用を一時損金としていたことについて指摘されていなかったが、それは理由にならない。
結論
・有価証券の購入のために要した費用には、その取得に関連して支出する一切の費用が含まれる。
・取得しようとする株式が複数ある場合でも、どの株式を取得すべきかを決定するために行うDD費用は、特定の株式を購入するか否かの意思決定を得るための費用であるため、株式の取得価額に算入すべき。なお、取得の実現可能性の程度は問わない。
・意思決定を判断基準にすると、取締役会等の開催時期を前後させる恣意性が生じるため、容認できない
まとめ
これまで実務上は、意思決定(取締役会等)の前後で判断(DDが取締役会等の前であれば一時損金、以後であれば取得価額算入)することが多かったですが、令和6年の裁決により、買収対象会社を特定している段階かどうかで判断することがより明確になりました。
興味のない会社のDDなどするわけもないので、DD費用はほぼ全てのケースで株式の取得価額に算入することになります。
今後の税務DDでは、過去のDD費用が一時損金になっていないか確認するという本末転倒なことが起きそうですね。
なお、合併におけるDD費用は、国税庁の質疑応答事例にあるように一時損金となります。(そもそも株式を取得しないので当然ですが。)
冒頭にお話した税務調査でも、DD費用は取得価額算入と指摘を受け、修正申告することになりました。
現状、DD費用を一時損金にする選択肢がなくなりましたので、続報を待ちたいと思います。