中小企業の申告業務を行っていると、個別注記表が作成されていない決算報告書を見かけることがあります。
利害関係者の判断を誤らせないことを目的とする「明瞭性の原則」に基づいて、会計の中で特に重要な項目を「個別注記表」に記載し、適切に表示することが求められているのは財務諸表論で勉強した通りです。
一般的には貸借対照表や損益計算書と併せて添付している個別注記表ですが、税務の世界ではどのような位置付けなのか、関連する条文にも触れながら確認してみたいと思います。
会社法
第435条(計算書類等の作成及び保存)
第2項
株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。
会社計算規則
第59条(各事業年度に係る計算書類)
第1項
法第435条第2項に規定する法務省令で定めるものは、この編の規定に従い作成される株主資本等変動計算書及び個別注記表とする。
当たり前ですが、会社法では個別注記表の作成が義務づけられていますね。
ちなみに、持分会社のうち合同会社は個別注記表が必要(会社法617②、会社計算規則71①二)で、合名会社と合資会社はケースバイケース(会社計算規則71①一)です。
なお、個別注記表を作成しないと会社法に違反することにはなりますが、罰則は定められていません。
中小企業の会計に関する指針(中小会計指針)
監査が入らない会社で、中規模以上の企業が一定の水準を保つために作成された会計ルールです。
注記についてどのように記載されているか確認しておきます。
3.本指針の目的
本指針は、中小企業が、計算書類の作成にあたり、拠ることが望ましい会計処理や注記等を示すものである。
こちらの会計ルールでも注記表は必要のようです。
中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)
指針よりもさらに規模の小さい企業を対象とした会計ルールです。
より簡便的な会計処理が可能となりますが、果たして。。。
1.目的
(1) 「中小企業の会計に関する基本要領」は、中小企業の多様な実態に配慮し、その成長に資するため、中小企業が会社法上の計算書類等を作成する際に、参照するための会計処理や注記等を示すものである。
やはり注記表からは逃れられないようです。
法人税法
いよいよ本命の法人税法となります。順を追って見ていきましょう。
第74条(確定申告)
第3項
第1項の規定による申告書には、当該事業年度の貸借対照表、損益計算書その他の財務省令で定める書類を添付しなければならない。
法人税法施行規則
第35条(確定申告書の添付書類)
第1項
法第74条第3項(確定申告)に規定する財務省令で定める書類は、次の各号に掲げるもの(当該各号に掲げるものが電磁的記録で作成され、又は当該各号に掲げるものの作成に代えて当該各号に掲げるものに記載すべき情報を記録した電磁的記録の作成がされている場合には、これらの電磁的記録に記録された情報の内容を記載した書類)とする。
一 当該事業年度の貸借対照表及び損益計算書
二 当該事業年度の株主資本等変動計算書若しくは社員資本等変動計算書又は損益金の処分表(これらの書類又は前号に掲げる書類に次に掲げる事項の記載がない場合には、その記載をした書類を含む。)
イ 当該事業年度終了の日の翌日から当該事業年度に係る決算の確定の日までの間に行われた剰余金の処分の内容
ロ 過年度事項(当該事業年度前の事業年度の貸借対照表、損益計算書又は株主資本等変動計算書若しくは社員資本等変動計算書若しくは損益金の処分表に表示すべき事項をいう。)の修正の内容
三 第一号に掲げるものに係る勘定科目内訳明細書
四 当該内国法人が通算法人である場合には、当該内国法人の法第六十四条の五(損益通算)及び第六十四条の七(欠損金の通算)の規定その他通算法人のみに適用される規定に係る金額の計算の基礎となる当該内国法人及び他の通算法人の有する金額等に関する明細を記載した書類
五 当該内国法人の事業等の概況に関する書類(当該内国法人との間に完全支配関係がある法人との関係を系統的に示した図を含む。)
六 組織再編成(合併、分割、現物出資(新株予約権付社債に付された新株予約権の行使に伴う当該新株予約権付社債についての社債の給付を除く。)、法第二条第十二号の五の二(定義)に規定する現物分配(次号において「現物分配」という。)、株式交換又は株式移転をいう。次号において同じ。)に係る合併契約書、分割契約書、分割計画書、株式交換契約書、株式移転計画書、株式交付計画書その他これらに類するものの写し
七 組織再編成(株式交換、株式移転及び株式交付を除く。)により当該組織再編成に係る合併法人、分割承継法人、被現物出資法人若しくは被現物分配法人その他の株主等に移転した資産若しくは負債の種類その他当該組織再編成に係る主要な事項又は組織再編成(現物分配にあつては、適格現物分配に限る。)により当該組織再編成に係る被合併法人、分割法人、現物出資法人、現物分配法人、株式交換完全子法人の株主、株式移転完全子法人の株主若しくは株式交付子会社(会社法第七百七十四条の三第一項第一号(株式交付計画)に規定する株式交付子会社をいう。以下この号において同じ。)の株主から移転を受けた資産若しくは負債の種類その他当該組織再編成に係る主要な事項に関する明細書(株式交付に係る株式交付子会社の株主から資産の移転を受けた場合には、当該株式交付子会社の株主に対して交付した株式その他の資産の数又は価額の算定の根拠を明らかにする事項を記載した書類を含む。)
注記表はどこにも明記されていませんでした。
結論
法人税法上、個別注記表は添付書類には該当しません。
中小のオーナー企業であれば、個別注記表を作成していないことによる税務上の実害はないでしょう。
ただし、上述の通り個別注記表を作成しないと会社法違反になりますし、金融機関や取引先などの第三者に決算報告書を提示する際には、与信の問題になることも考えられます。
当然ですが、個別注記表は確実に作成しておきましょう。